【借金返済】会社の実権を巡る争い

JR
北海道
採用

主文

1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。

事実および理由

第1請求

原告が被告の2万2080株の株主であることを確認する。

第2事案の概要

1基本的事実関係(当事者間に争いがないか,【】内の証拠により認める)
(1)被告は株式会社である。
被告の定款は,被告の株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならないと定めている。
(2)A社(当時の代表取締役はB)は,平成10年5月13日当時,被告の発行ずみ株式総数4万4160株のうち2万2080株の株式を有する株主であった(甲4に表象されている株式がこれである。
以下「本件株式」という)【甲1,弁論の全趣旨】。
(3)A社は,平成15年3月27日,東京地方裁判所で破産宣告を受け,平成16年12月20日,費用不足により破産廃止となった【乙2】。
Bは,破産宣告の直前までA社の代表取締役を務めていた【乙2】。
B個人も同じ時期に破産宣告を受けている【証人B】。
(4)原告はBの子である。
原告は被告に対し,平成16年1月17日付けで,本件株式について名義書換の請求をした。
これについて,被告は原告に対し,同月28日付けの内容証明郵便で下記のとおり通知した。
a原告は,A社から原告への譲渡につき取締役会の承認を受けなければ,本件株式の名義書換を請求することはできない。
b名義書換の請求をもって本件株式の取得承認を請求するとの趣旨であるとしても,被告は,同月27日の取締役会でこれを承認しないと決定した。
(5)被告は平成16年1月31日,新株を発行し,発行ずみ株式総数は5万6256株となった【甲1】。
2原告の主張(請求原因)
(1)原告は,平成10年5月13日,A社から本件株式を譲り受けた。
(2)譲渡制限のある株式の譲渡を承認するか否かは,取締役会の完全な裁量にゆだねられているのではなく,取締役は承認するか否かの判断について善管注意義務,忠実義務を負う。
原告による本件株式の取得を承認しないとの決議は,以下の理由により,この義務に違反するもので,違法無効な決議というべきである。
ア被告は昭和50年にBを中心に設立された会社であり,平成16年1月の新株発行の前は,Bが代表取締役を務めるA社がその発行ずみ株式の2分の1にあたる本件株式を保有し,さらにBとその親族のうちBに協力する者4名が各2400株を保有していた。
これらの株式は合計3万4080株であり,発行ずみ株式総数の77%を占めていた。
イ上記のような株主構成である被告において,Bの子である原告が本件株式の取得を拒絶されるいわれはなく,上記の取締役会の決議は,現取締役らがB一族を排除し,みずからが被告を支配する意図からされたものといわざるをえない。
これは本来の閉鎖会社の取締役として譲渡を承認すべきか否かの判断基準を逸脱した決議であり,取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反した違法な決議というべきである。
ウ平成16年1月の新株発行は,増資の必要がまったくないのに被告の現取締役が被告の支配をもくろんで行ったものである。
すなわち,新株が割り当てられることとされた平成16年1月8日午後5時時点の株主名簿に記載のある株主のうち,本件株式の株主であるA社は破産手続中であった。
本件株式はすでに平成10年に原告に譲渡されていたし,破産管財人が新株引受けをするはずもなく,失権株になることは明らかであった。
本件株式に割り当てられた失権株2万6496株(1株につき1.2株の割合による割当て)を現取締役が引き受ければ,現取締役の保有株は4万8672株となり,予定した新株発行後の発行ずみ株式総数9万7152株の過半数を超えることとなるはずだったのである。
結局,B一族は新株発行に異議を申し入れて引受けを拒絶し,A社の引受けもなく,失権株の引受けもないままに終了したのであるが,増加した資本はわずか604万8000円にすぎない一方,現取締役の支配株数は2万2176株となり,B一族の持ち株1万2000株を超え,被告の支配権を取得することとなった。
新株発行が資金調達を目的としたものでないことはこのことからも明らかであり,現取締役の一連の行動はすべて被告の支配権獲得のためのものである。
原告の株式取得承認請求を拒絶した行為も同一の意図のものに行われた違法なものである。
(3)以上の次第で,原告は本件株式の株主であるから,この確認を求める。
3被告の主張
(1)原告の主張(1)の事実は否認する。
(2)平成16年1月の新株発行につき,被告の現取締役が,B一族を排除し,みずからが被告を支配する意図で行ったものであるとの主張は否認する。
現取締役にもB一族はいる。
被告の取締役会が本件株式の譲渡を承認しなかったのは,Bないしその子のためでなく被告のためを考えた各取締役の判断である。
増資の必要がなかったのに新株発行をしたとの主張も否認する。
A社が破産した影響で,被告はメインバンクから融資を受けられない状況となり,資金調達・自己資本充実のために増資をする必要があった。
新株発行は完全に適法かつ有効であり,これが本件株式譲渡承認に関する取締役会の決議の違法をもたらすことはない。
(3)そもそも,譲渡制限のある株式の譲渡の承認を取締役会が拒否するについて,正当な理由があることは必要でなく,したがって譲渡承認の拒否にあたりその理由を示すことも必要でない。
かりに,原告の主張するように,譲渡承認を拒否する取締役会決議につき取締役の善管注意義務,忠実義務が問題になるとしても,その義務違反の効果は,損害を受けた者に対し各取締役が損害賠償義務を負うにとどまり,取締役会の決議がただちに違法無効となるわけではない。
株式譲渡承認を拒否された者については損害が生じていないから,各取締役は損害賠償義務さえ負わないのであり,そのような場合に同決議が違法無効となるはずがない。

第3当裁判所の判断

1原告はA社から本件株式を譲り受けたか
(1)Bの証言
Bは次のとおり証言する(陳述書[甲9]を含む)。
ア平成9年3月,被告からC(Bの父)に対する死亡退職慰労金2557万円が支払われることになり,Cの相続人としてこれを取得することになったBの銀行預金口座にこれが振り込まれた。
当時BはA社の代表取締役であった。
ところが,A社の取締役のひとりがこれを勝手に引き出してA社の運転資金として使用してしまったため,BはA社に対してその返還を請求できることになったが,金銭の返還に代えて,当時1100万円程度の価値があった本件株式を譲り受けることにした。
ただし,Bが直接譲り受けるのではなく,Bの娘でありその秘書をしていた原告が譲り受けることになった。
平成10年5月13日にA社の臨時取締役会を開催し,この譲渡について承認の決議をした。
イ原告は無償で本件株式を取得したことになるが,贈与税の申告はしていない。
ウ本件株式が原告のものになった後も,当時原告がBの秘書をしていたこともあり,本件株式の株券は引き続きA社の社長室で保管されていた。
エ平成14年になって,A社がDという者から3000万円を借りることになり,同年8月か9月,Bは,この借入金の担保として本件株式の株券をDに差し入れた。当時原告はこのことを知らなかったと思う。
オ平成15年7月,原告は,上記借入金の残金約1500万円を自分で工面してDに支払い,Dから本件株式の株券を取り戻した。
その経緯はBはよく知らない。
その後,原告とA社の間で,この原告の返済について何らかの処理をしたことはない。
(2)検討
ア原告は本件株式の株券を証拠として提出しており(甲4),この事実は,原告が本件株式を譲り受けたことの根拠になりうる。
しかし,本件株式の株券はもともとA社の社長室で保管されていたというのであり,BがA社の代表取締役であったこと,原告がBの子であることを考慮すれば,かりに原告に対する譲渡の事実がなかったとしても,原告が本件株式の株券を証拠として提出することは十分に可能であると考えられる。
したがって,原告が本件株式の株券を証拠として提出していることだけから,原告の主張する譲渡があったと認定することはできない。
イBの証言については,次のような不自然なところを指摘することができる。
第1に,平成10年5月13日に開催されたというA社の取締役会については,内容が微妙に異なる取締役会議事録が存在する。
原告が証拠として提出する議事録(甲3)と,被告が証拠として提出する議事録(乙1)である。
平成10年5月13日当時の商業登記簿上のA社の取締役(乙2)と,甲3,乙1それぞれの内容を一覧表の形に整理すると,別紙(省略)のとおりであり,どちらの議事録も登記簿の記載とは異なっている。
このことについて,Bは,平成14年11月以降に乙1の議事録を作ったが,その後10日ほどして甲3の議事録を作った。
秘書に作らせたので(注・Bは明言しないが,その証言を前提にすると,ここでいう秘書とは原告のことであると解される),役員欄をまちがえたのだと思うと証言する。
しかし,まず,平成10年5月の取締役会について4年以上もたった平成14年11月以降に議事録を作るということ自体不自然である。
あいついで2つの議事録を作成した経過も不明であるし,しかも,いずれの内容も登記簿の記載とは異なり不正確である。
これらの事情によると,この取締役会議事録の内容の信用性には大きな疑問が残り,これがあることを根拠としてそこに記載のあるとおりの本件株式の譲渡があったことを認定するのは困難である。この
取締役会についてのBの証言をただちに採用することはできない。
第2に,Bの証言する原告とBの行動は,本件株式が真に原告に譲渡されたとすればとても考えられないようなものである。
まず,原告は,本件株式を贈与されたことになるが,贈与の理由として得心のいく説明はないし,また,1100万円もの価値があったというのに,贈与を前提とした税金の処理はされていないという。
契約書面が存在しないので,A社,B,原告の三者間でどのような合意が成立したのかも不明である。
次に,原告は,本件株式を取得したにもかかわらず,株券を自分で保管しないでその保管をBにゆだねていたといわざるをえないし,Bも,原告の承諾を得ることなくこの株式をA社の借金の担保として差し入れるなど,あたかもA社ないし自分が本件株式の権利者であるかのようなふるまいをしている。
さらに,勝手に本件株式
を担保として使われた原告が,自分で1500万円もの資金を工面してこれを取り戻し,その後A社やBとの間で何の処理もしていないというのも不可解な話である。
このようにみてくると,本件株式が原告に譲渡された経緯についてのBの証言は不自然といわざるをえず,Bの証言を根拠として原告への譲渡の事実を認定するのは困難である。
第3に,A社の平成13年4月1日平成14年3月31日の事業年度における決算書類では(当時のA社の代表取締役はBである),A社が本件株式の株主であることを前提とした処理がされている(乙3の1・2,4,証人B)。
この事実はBの証言とは根本的にあいいれず,その証言の信用性を疑わせる。
ウBは,A社の破産管財人は原告への譲渡の事実を了解しているという趣旨の証言をする。
しかし,Bの証言以外に何の裏づけとなる証拠もなく,ここまでの検討をふまえると,このBの証言もただちに採用することはできない。
また,かりに破産管財人が本件株式のことを不問に付したのだとしても,そのことには種々の理由があるとも考えられるから,その事実だけから,Bの証言するような譲渡の事実を認定することはできない。
エ以上の検討によると,Bの証言によって本件株式のA社から原告への譲渡の事実を認定することはできず,ほかに的確な証拠もないので,原告が本件株式を取得したとの事実を認定することはできない。
したがって,そのほかの点について検討するまでもなく,原告の請求は理由がないといわなければならない。
2原告が本件株式を取得したと仮定した場合の議論
念のため,原告が本件株式を取得したと認められた場合についても検討する。

(1)原告の主張は,譲渡制限株式について取締役会が譲渡の承認をしないとの決議をした場合,その取締役の判断に善管注意義務・忠実義務違反があれば,当然に譲渡を承認したのと同じ効果が生じる,というものである。
原告の立論は,いずれにしても,A社あるいは原告が被告に対して譲渡の承認を請求したことを前提にせざるをえないものであるが,本件においては,まず,そのような承認請求があった事実自体を認定することができない。
原告がしたのは名義書換請求にすぎないのである(甲5)。
したがって,この点だけからしても原告の主張を採用するのは困難である。
(2)かりに承認請求があったとしても,原告の主張には以下のような難点がある。
第1に,本件においては,原告の主張する事実関係を前提にしても,被告の取締役が被告よりも私益を優先させたという事情があると認めるのは困難である。
A社が破産した経緯に照らすと,Bの影響力を排除することこそが被告の利益になるという判断も十分可能だと考えられるからである。
したがって,被告の取締役の善管注意義務違反,忠実義務違反を認めることはできない。
第2に,一般論としても,取締役が善管注意義務・忠実義務を負うのは会社に対してである。
かりに譲渡承認をしないとの取締役会の決議に関して取締役の善管注意義務・忠実義務違反があったとしても,そこからただちに承認決議と同じ効果が生じるというのは論理の飛躍であるといわざるをえない。
実際にも,原告の主張の根拠となる商法の条文を見つけることはできない。
(3)以上のとおり,いずれにしても原告の主張を採用することはできないから,かりに原告がA社から本件株式を譲り受けたのだとしても,本件において原告の請求を認容することはできない。
3結論
原告の主張は,事実の点においても,法律上の点においても,いずれも採用することができない。原告の請求は理由がない。

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